ウィスラーのアルパインを遊び尽くす!上級者向け「アームチェア・トラバース」1泊2日トリップレポート

今日紹介するのは、ウィスラーにあるハイキングルート「アームチェア・トラバース(Armchair Traverse)」です。
こちらのルートは、通常のハイキングというよりも「スクランブリング」と言ったほうがいいかもしれません。ウィスラーの中でも上級者向けハイキングルートとして知られる「ウェッジマウント・レイク(Wedgemount Lake)」のトレイルを行き、レイクサイドのキャンプ場から北側にある山「マウント・クック(Mount Cook)」と「マウント・ウェアート(Mount Weart)」を繋ぐ稜線を歩くトラバースルートです。
途中、幅1メートルもないような細いナイフリッジを歩いたり、クライミングと思うような急な岩肌を登るセクションもあります。気軽に「誰もが行こう!」と言えるようなルートではありませんが、高山帯を歩くのが好きだったり、アルパインの雰囲気が大好きな人には、たまらなくオススメなルートです。
僕がこの場所を訪れたのは2022年8月25日。1泊2日の行程でトラバースを行いました。このトリップの記録をもとに、ルートの詳細や攻略のポイントを解説していきます。

🚗 トリップの概要とアクセス方法
- 日程:2022年8月25日〜26日(1泊2日)
- 主な目的地:ウェッジマウント・レイク、マウント・ウェアート(Mount Weart / 2,835m)
- 登山口(トレイルヘッド)へのアクセス:ウィスラー・ヴィレッジからハイウェイ99(Highway 99)を北へ車で約12分。右折してウェッジマウント・レイク・トレイルヘッドのパーキングへと向かうダートロードに入ります。
💡 アクセス時のワンポイントアドバイス
トレイルヘッドに続くダートロードは約2km。きれいに砂利が敷き詰められた道なので、特別な4WDなどの車が必要になることはありません。2WD(二輪駆動)の乗用車でも問題なく上まで行くことができます。
🏔️ Day 1:夕方スタートでウェッジマウント・レイク・キャンプ場へ
この日は日中に仕事をしていたこともあり、出発は夕方からになりました。
【1日目のタイムライン】
- 17:00 トレイルヘッド(標高750m)スタート
- 18:54 標高1,480m地点を通過
- 19:30 標高1,700m地点を通過
- 20:30 ウェッジマウント・レイク(標高1,870m付近)キャンプサイト到着
(総行動時間:約3時間30分)
17:00 | トレイルヘッドからスタート

標高750メートルのパーキングから、第一目的地であるウェッジマウント・レイクがある1,850メートル付近まで、一気に森の中のトレイルを登り始めます。
このトレイルは非常に人気があるため、きれいに整備されています。サインも短い間隔で設置されているので、道に迷う心配はまずないでしょう。
トレイルのスペックは全長約5.5km、標高差1,170mの急登です。夏の暑い時期に行くと非常に乾燥していて、とにかく喉が渇きます。水は多めに持って行きましょう。給水ポイントは湖か小川になるので、濾過フィルターや水を沸かすセットを持っていくことをお勧めします。日陰に入ると蚊などの虫が大量にいる場所が多いので、虫除けスプレーは必須アイテムとして持参することをおすすめします。


19:30 | 森を抜け、最後の急登セクションへ
5.5kmのトレイルのうち、3分の2以上は森の中をひたすら歩きます。最後の湖の手前にある急登セクションに差し掛かると、一気に視界が開けて一歩一歩の景色が格段に良くなります。
僕たちはスタートから2時間半をかけて、この最後の急登の手前までやってきました。時刻は19時半。太陽は西の山へと近づき、僕たちを背中から優しく照らしてくれます。
この最後の急登は、手を使わないと登れないような斜面です。足元が滑りやすいので、一歩一歩慎重に登りましょう。
ここを登りきると、今回の目的地である「マウント・ウィアート」が目の前にドカンと姿を現します。




「明るいうちにキャンプ場に着きたいね」と話しながら登っていた僕たちですが、この場所で太陽は山の向こうへと隠れていきました。しかし、この時間帯に歩いたからこそ見ることができた、ピンク色に美しく染まるアルパインの山々の絶景は、本当に感動的でした。
20:30 | ウェッジマウント・レイク キャンプサイト到着

最後の急登セクションを登り始めて約1時間、無事にウェッジマウント・レイク湖畔のキャンプサイト(標高1,870m付近)に到着しました。
周囲の山々が夕暮れに染まっていく美しい景色を眺めながらテントを設営し、手早く夕食を済ませると、明日に備えてテントでストレッチ。





夜中12時ごろにテントの外を見るとそこは満天の星空、本当に綺麗な場所です。

🏔️ Day 2:言葉を失う朝の絶景と、アームチェア・トラバース本番
5:30 | 起床。真っ赤に染まるウェッジ・マウンテン
翌朝は5時30分に起床。トラバースの行動開始時間としてはここまで早く起きる必要はなかったのですが、僕は朝日が昇る前のウェッジマウント・レイクとウェッジ・マウンテン(Wedge Mountain)の写真をどうしても撮りたくて、目を覚ましました。
ここウェッジマウント・レイクのキャンプ場からは、目の前に広がる巨大な氷河と、ウィスラー周辺では最高峰となる「ウェッジ・マウンテン(標高2,892m)」の圧倒的な山容を真正面に望むことができます。



山々に深く囲まれているため、キャンプ場から直接、遥か彼方の地平線から昇る太陽を見ることはできません。しかし、氷河と湖から流れ込んでくる引き締まった冷たい空気、そして世界が真っ青に包まれるブルーアワーの中、ウェッジ・マウンテンの頂上だけが朝日に照らされて真っ赤に染まっていく景色は、言葉にできないほどの美しさでした。
興奮が止まらなくなった僕は、湖の周りを歩き回りながら、1時間ほど夢中でシャッターを切り続けました。アルパインフラワー、湖に流れ込む透明な小川、そしてエメラルドグリーンに輝く湖。これこそがまさに、カナダを象徴する大自然の美しさだと思います。
7:00 | アームチェア・トラバース開始

いよいよ、今回のメインイベントであるトラバースの開始です!
キャンプ場から北に向かって、まずは岩のガレ場を歩いて登ります。最初の目標は、マウント・クック(Mount Cook)です。ウェッジ・マウンテン側の氷河(Wedge Glacier)を後ろに見ながら、マウント・クックへと向かいます。
この登りは標高差約800メートル。一歩一歩が重いですが、山の頂上に立てば最高の景色が待っています。
マウント・クックの北面はスパッと切り立った崖になっており、その下には息をのむほど広大な氷河がどこまでも広がっていました。





9:40 | 稜線の裏側に広がる広大な景色でブレイク
約800メートルの登りを終えて無事にマウント・クックの頂上へ。その背後に広がるどこまでも大きな景色を楽しみながら、最初の休憩を取ることにしました。

本当に何度も言ってしまうのですが、カナダのこの圧倒的なスケールの景色は美しすぎて、何度見ても飽きることがありません。そして、この地に長く住んでいるからこそ、地球の壮大な時間軸のなかで少しずつ溶け、後退していく氷河の姿など、自然の変化をリアルに肌で感じられることも、この旅の大きな醍醐味だと感じます。
13:30 | 核心部:マウント・ウェアートへと続くナイフリッジを行く

ここからが、このトラバースのハイライトであり、最も緊張感のある核心部セクションです。
マウント・ウェアート北ピークからマウント・ウェアート(Mount Weart)頂上へと繋がる稜線を渡っていきます。距離にして約500メートル。ピークに向かう途中、一度標高を50メートルほど下げてから、再び登り返すルートをとります。
所々にクライムダウンが必要な箇所や、実際のクライミングに近いムーブを要求されるパートがあり、スクランブリングの確かな技術と経験が試される場所です。
両サイドは完全に切り立った崖(数百メートル切れ落ちている箇所も)になっているため、ここでは集中力を最大に高め、細心の注意を払って一歩ずつ進みました。
このスリリングなセクションをクリアすると、今回のトリップの最高到達点であるマウント・ウェアート(標高2,835m)の山頂に立つことができます!




⚠️ ルースロック(浮き石)に最新の注意を払いながら、キャンプサイトへ下山
ウェアートの山頂を踏んだ後は、いよいよキャンプサイトへと下山していきます。
ここからは、非常に急な岩肌、ルースロック(浮き石)、スクリー(細かい砂利・石の急斜面)が続くエリアを下りていくことになります。
写真を見ても分かるとおり、本当に足元が不安定で、落石を起こしやすいエリアです。



🚨 下山時の超重要ルール
自分が下りるルート上、またはその下に他のメンバーがいる場合は、絶対に石を落とさないよう最新の注意を払って歩く必要があります。岩場での下り(スクランブリングでの下山)に慣れていない人は、ここで予想以上に体力を消耗し、時間を取られてしまう可能性があります。自身のスキルに合わせて、余裕を持ったタイムスケジュールを組んで挑戦してください。
下山の途中でも、ウェッジ・マウンテンから流れ落ちる迫力満点の氷河を目の前に見ることができます。ルート上、少しだけ氷河の上を安全に歩けるセクションもあるので、遥か昔からそこに凍りついている地球の歴史に、ぜひ直接触れてみてください。
🏃 17:15 | キャンプサイトへ帰還、そして下山
トラバース、そして急なスクリーの下山を終えて、僕たちがウェッジマウント・レイクのキャンプ場に戻ってきたのは17時15分。朝5時30分に起き出してから、ちょうど12時間の長い1日でした。
ここからは少し休憩を取ってエネルギーを補給し、手早くテントを撤収。一気に重い荷物を背負って、ふもとの駐車場へと下りていきました。

🌲 アームチェア・トラバースを振り返って
今回のトラバースは、僕自身にとっても本当に素晴らしい経験となりました。
スコーミッシュに暮らし、長い間ロッククライミングを中心に活動してきましたが、実はこれまでアルパインの山奥深くへアプローチする機会はそこまで多くありませんでした。
しかし、うっそうとした森の中の急登から始まり、美しい氷河湖、大氷河、そしてまるでナイフの刃のように切り立った稜線を歩く今回の山行は、本当にエキサイティングで楽しいものでした。
これまでに山を歩いて培ってきた「脚力」や「バランス感覚」、そして岩場で鍛えてきた「クライミング技術」のすべてがカチッと噛み合い、自分の経験値が試される旅になったと実感しています。
そして何より、僕がカナダのウィスラーに初めてやってきた2008年当時と比べて、氷河が目に見えて後退し、変わりゆく山の景色を自分の目で確認できたことも、深く考えさせられると同時に、この旅に行って良かったと思える最高の瞬間でした。
