Howe Sound Seakayaking Trip Report. どこを旅するかよりも、どう旅をするか。
シーカヤックで旅をする魅力。
「知ってた?カナダ西海岸はシーカヤッカーにとって天国のような場所なんだよ」
という言葉を何人ものシーカヤックを愛する友人から聞いてきた。その理由はこの場所に来てみればすぐに納得できる。と言い切れるぐらいこの地はシーカヤックに向いた自然環境をしている。氷河が作り出した奥へと入り組むフィヨルド地形、そこに浮かぶ島の数々、海と森の距離が近くそこに海獣が住み、外洋に面していないので海面も穏やかだ。そんな観光名所になっていない観光名所が山のようにある。
過去にも一度 SaltSpring Island周辺をシーカヤックで旅をしたことがあるが、それはワーホリ時代のハイライトのひとつになった旅でもあった。(あの時誘ってくれてたぐっさん、ありがとう。)
人間の生きる知恵と冒険の歴史を感じることができるシーカヤックでの旅は、僕はとてもロマンチックだと思う。海へひとたび漕ぎだすと、まるで動物園の檻の中から抜け出たみたいに視点が180度変わり、生きるための別のルールがそこには存在するように感じられる。様々な動力源があるこの世の中で、自分の腕の力だけで静かに未来へと進んでいく。そんなシンプルでロマンあふれる旅の方法であり道具でもあるのがシーカヤックだ。
今回はそんなシーカヤックトリップのレポート。バンクーバー周辺の旅を考える時の参考にしてもらえたら嬉しい。
ある日の仕事の終わりのこと。カフェのクロージング作業ををしていると同僚のソフィアが
「明日シーカヤック漕ぎに行くけど一緒に来る?」と声をかけてくれた。
ソフィアはバンクーバー出身の21歳で、クライミングにマウンテンバイク、バックカントリースキーを愛する…ということまでは知っていたが、まさかシーカヤックの経験までしっかりあると聞いて驚いた。話を聞くかぎりキッズキャンプのインスタラクター時代によくこのエリアを漕いでいたらしい。フィールドがいたるところに揃っているカナダ西海岸で生まれ育つと、アウトドアエリートに育ちやすいのは間違いない。もしくは当たり前過ぎてあまりアウトドアに興味を示さなくなるかなんだろう…なんて考えていると、隣にいた同じく同僚のジェシカが「私も参加する!」とノリノリで飛び込んできた。
5分前まで思いつきもしなかった物事があれよあれよと決まって行く。なんというか、こういう物事の決まり方が僕は好きだ。スポンテイニアス(なりゆき)に旅の予定が決まっていくのは、スコーミッシュというアウトドアタウンに住んでいる特権の一つだとも言える。
こうして僕の妻を含め四人での1泊のシーカヤックトリップに急遽行くことになった。のはいいんだけど、地元のアウトドアショップで借りれるカヤックが翌日分だけだということが判明し、あいにくだが日帰りのトリップとなった。まぁこういうこともこスポンテイニアスの一つだ。流れに身を任せ楽しむしかない。
でもこうしてレポートを書いているのは、これが何より素晴らしい体験だったからだ。
「どれだけ遠くに行く」とか、「どんなに長く旅に出る」とかは(その限界に挑戦している人たちをのぞいて)重要ではないと新ためて思い出させてくれた。やっぱり大切なのは「そこから何を感じ取るのか」だ。
さて今回旅する場所は、Howe soundと呼ばれるバンクーバーの北西部からスコーミッシュにかけて広がる湾の中だ。スコーミッシュから南に車で20分、Porteau Cove と呼ばれる入江からスタートする。そしてAnvil island とGambier Islandという二つの島に立ち寄り、同じ入江まで戻ってくる予定だ。
距離にして約30km。久しぶりの長いパドリングに少しドキドキする。
そもそもこのエリアは、バンクーバーに向けて車を走らせる度に車内から見える島々を眺めては、いつかこの海を漕ぎたいなぁと思っていた。あの島の裏側はどんな景色になっているのだろう、海から陸地を見るとどんな景色なんだろうと。そんなささやかな夢が叶う旅でもあった。
僕自身はそんなにカヤックの経験があるわけではないけど、さっきも書いたように、必然的に視界が変わり、海の生物の仲間入りをしたかのような気分になれるカヤックが僕は前から好きだった。シーカヤックはアウトドアスポーツでもあるし、移動手段、道具、生活様式の一部でもある。人類の歴史や先人の叡智に触れることでもあり、いつも特別な体験だ。
ソフィアからは「夏のこの湾は午後3時半をすぎると風が強くなりだすの。だからなるべく風がなく海が落ち着いている朝早い時間になるべく移動するのが鉄則よ。」と聞いていた。というわけで朝日とともに行動を開始する。正直に書くと早起きはあまり得意な方ではない。それでも朝日を浴びて世界が目覚め始めていく姿を見ているといつも感動して仕方がない。日没とはなにやら違う時間の流れがそこにはある。家で淹れたコーヒーをすすりながら手際よくカヤックを下ろしていく。ソフィアは仕事の時は少しさぼりがちなんだけど、遊ぶ時はとてもテキパキしている。そんな性格も悪くないかもな。なんて真逆の僕は考えていた。
朝早くから犬を散歩させている人といくつか挨拶を交わし、記念写真を撮ってもらうと僕たちはいよいよ対岸へ向けて出発した。穏やかで鏡のような水面にパドルが入水していく。スーっと音もなく前に進んでいくカヤック。早朝の静かな海面に海鳥と僕たちだけが浮かんでいる。あぁやっぱりロマンがある。
ではここからは写真をメインにこの旅の雰囲気をシェアしていこう。
このAnvil Islandの裏側へ向かう。