『人』のカタチ

あなたは幸せですか?と聞かれた時、すぐに答えられるだろうか。それとも考え込んで答えが出ずに終わるだろうか。僕は常々、このシンプルな質問を自分に問いかけている。もちろん答えが出ない時もあったが、今は違う。決して「僕は今幸せです」。と言っているわけでなく、そうでない時もノーと言えてその原因を突き止める事ができる状態にあると言うことだ。この「幸せですか」、と言う質問にわからないと答えてしまうことは良くない状態だと思う。なぜなら『自分にとっての幸せ』が何なのかわからない状態を指すからだ。この質問の答えを出すのに重要になってくることは一つ、自分の人生で何を優先したいかと言う事だと思う。カナダに住んで17年、僕の幸せステータスについて書こうと思う。

まず、この質問を意識し始めたのはここ数年の話であり、17年前は全くそんなことは意識していなかった。写真家になりたい!と言う思いで日本を飛び出し、新しい環境で過ごしながら訳もわからず必死になっていたのを覚えている。当時の僕に「幸せですか」と聞いても答えは返ってこないだろう。日本を飛び出したは良いものの、具体的に何をやれば自分の目標に辿り着けるかもわからずに走っていたからだ。この時の優先事項は写真を撮ること、だからどこに行くにもカメラを握りしめていた。しかし、写真を撮ったからと言って写真家になれる訳ではなく、撮り溜まったいく写真のファイルを観ながらこれは意味があるのだろうか。。。などと悩んでいた事もある。優先すべきことは写真を撮る事だったが、最も大切なこととは写真家になる事だからだ。こうして自分の幸せについて考えた事はなく、ただ闇雲に写真のことだけを考えていた。

そして幸せという言葉を考え始めたのはここ6、7年だと思う。自分の中で胸を張って写真家です、と言えるようになり自分を取り巻く環境や自分自身の見え方が変わってきた。そしてカナダに来て以来僕の人生の優先順位の一番にいた『写真を撮る動作』が変わった。今僕の中で最も大切なこと優先したいことは、『自分と向き合うこと』である。え、なんかはっきり言わずに濁してません?なんて思うかもしれないけど、この行為は人生において最も優先すべき事。幸せって何ですか?と聞かれた時に答えられないのは自分を知らないからで、自分が何者か知らない以上、その何者かを満足させる事はできないからだ。

写真を撮り続けてきた僕は、気付けば写真という媒体を通して自分と対話してきた。写真を撮るという行為が自分であり、それと向き合うことは自分との対話であるからだ。作家という言葉に強い憧れを抱いていた僕は、写真の仕事が増えてくるにつれて仕事とは何か、という事をより考えるようになった。写真を仕事にする以上、商業的でないと仕事として成り立たないこともある。しかし商業的過ぎては自分の信じる写真という部分から離れてしまう、散歩して撮る写真から雪山で撮る写真、そして依頼を受けて撮る写真まで撮影をするときは『なぜ撮るのか』という事を常に考えていた。そのプロセスで現れたのが『自分の幸せ』という言葉だった。

そしてその『自分の幸せ』とは写真を撮ることによって何がしたいのか、言ってみれば『なぜ撮るのか』ということに直結していたのだ。これに気づいていない頃の僕は、ただ綺麗な写真、カッコいい写真を撮る事を考えていた。だがいくらそのような写真を撮ろうと満足できなかったし、その行為自体が無意味にさえ思えた。しかし撮った写真で何を表現して、何を伝えたいのかがはっきりとしたとき、それが僕の幸せ(僕に とって大切なこと)なのだと気付いた。写真を撮るのはただの行為、その結果できるものが大切であり、撮った写真で何を表現したいのかである。こうして僕はカメラを握ることよりも、撮ろうとしている写真で自分は何をしたいのかを考える事を優先した。その内容は自分が人生で何を成し遂げたいのかという事だった。いわば僕が人生で大切にしたいことだ。それがわかったとき、日々の生活で優先すべき事柄もはっきりしてきた。これらを理解したとき僕は今幸せかどうかはっきりと言える。「僕は幸せです」と言い切れるときは大切な事柄を優先して日々の生活を送れているときだ。そうでないときは僕は幸せとは言えない。たとえ僕の人生で成し遂げたい事がまだ未達成であっても、自分にとって大切なことを優先して生活していればいつか達成できる。そう信じているから僕は幸せなのだ。

ではこの何度も繰り返した言葉、『幸せ』って一体何だろう、それは人それぞれ答えが違うはず。大金持ちになる事、好きな事をやり続ける事、ひっそりと田舎で暮らす事、名声を得る事、家族を作り暮らす事、これらの全てを手に入れる事。100人に聞けば100通りの答えが返ってくるだろう、そしてその全てが幸せの形であり誰も否定はできない。『幸せ』とはただの言葉であり、それに対して誰もが違った意見を持っているはずだ。自分の人生において大切な事を見つけて、それを優先して日々を送っていればきっと幸せになれるはず。大切な事や物は先程述べたように人それぞれ、何かを達成することかもしれないし、何かを守ることかもしれない。でもその何かを見つけて、優先して日々を送っていればきっと幸せになれるはずだ。